皆さんこんにちは。
企画部の伊藤です。
2021年も残り少なくなってきたこの頃、長いコロナ禍もひとまず落ち着きを取り戻しつつあります。
ボックスワンの所属するイベント・展示会業界も、ようやく日常の風景という光が見えてきたように感じます。
毎週のように展示会が行われるようになり、営業担当者は各種発注作業や現場管理に大忙しの繁忙期が続いているようですし、企画部に所属する私も年明けのコンペ案件に参加するためプラン作成に頭を悩ますことが増えました。
東京オリンピック・パラリンピックとコロナ禍のダブルパンチで各種展示会開催がストップし、それに伴いぼんやりと鈍っていた頭をリハビリさせる意味も込めて、ここで改めてイベント・展示会業界におけるデザインの基本をおさらいしてみようと思います。
まずブースをデザインする上で、基本的な造作部材として木工とシステムというふたつの要素があります。
木工は、骨組みと板を組み合わせることで壁や台、看板を構成していく手法です。
システムは、ボックス・ワンでは基本的にドイツのオクタノルム社が開発したオクタ・システムを使用して壁や台、看板を構成していく手法をとっています。
どちらにも一長一短、メリット・デメリットがあり、どちらかがより優れているというものでもありません。
さて、日本には「尺貫法」というものがあります。正確には ありました と言うべきでしょうか。
尺貫法とは、長さ・面積などの単位系のひとつで、長さの単位を「尺」、質量の単位を「貫」、体積の単位を「升」とする日本古来の度量衡法です。メートル条約に加入後、1891年(明治24)メートル法を基準として、尺・坪(面積の単位)・升・貫を定義し、1958年(昭和33)までメートル法と併用されていました。
土地や建物に関する計量については、1966年(昭和41)までは尺貫法による計量単位を用いてもよいことになっていましたが、それ以後は、すべてメートル法による計量単位を用いなければならなくなりました。
正確にはありましたと言ったのはそういう理由からです。
しかし、長い年月をかけて使用されてきた尺貫法が、法律で規制されたからといってすぐに消え去ってしまうわけはありません。オフィシャルにはなくなってしまったものが、実は使われ続けているということは多々あることです。
尺貫法において、一般的に用いられる長さ寸法は
1間…1,820mm
1尺…303mm ※3尺は910mm
1寸…30.3mm
などとなります。
展示会業界では、アクリルや木工の板材を扱うときに「サブロク」「シハチ」という言葉がよく使われます。
これは尺貫法に基づく規程寸法で、サブロクは3尺(909mm)×6尺(1,818mm)、シハチは4尺(1,212mm)×8尺(2,424mm)というところからきた通称です。
昨今ではメートル法に基づき、900mm×1,800mmのサイズのものをサブロク、1,200mm×2,400mmのサイズのものをシハチとすることも多いようです。
木工造作物の幅・奥行き・高さといった寸法は、300mm、450mm、600mm、900mm、1800mmといった数字を組み合わせて設計されたものが多く、これは日本の木工部材の多くが尺貫法を基準に制作されてきた名残ということができると思います。
システムを使ったブースデザインを行う場合は基本的にオクタ・システムを使用してのブース設計となりますが、こちらはドイツ由来の部材ということが理由なのでしょうか、メートル法基準の規定寸法となっています。
正確には約1mの990mmを一つの基準とし、そこから派生した290mm、495mm、700mm、1,400mmといった寸法の部材を組み合わせて設計していきます。
展示会ブースの1小間サイズは3m×3mとなっていることがほとんどですので、メートル法基準のシステム部材を使用したブース設計というのは非常に理にかなっていると思います。
また、木工部材は直線・曲線にとらわれない自由なデザインが可能となるのが良さですが、その上でキリの良い部材寸法に目配せしながら、なるだけコストを抑えたプランニングということを心掛けて業務を行っています。
ところで、日本の工業規格と言えばJIS規格がありますね。
JIS規格とは「日本産業規格」を指します。これは長らく「日本工業規格」と言われてきましたが、2019年(令和元)に改称されました。
英語の「Japanese Industrial Standards」の頭文字をとり、一般的には「JIS規格」と称されています。
JIS規格は工業製品の耐久性、安全性などを規格化することにより、日本の技術力の向上や国際競争力をつけるための工業基準値のことです。
わかりやすく言うと製品の種類やメーカーの垣根を越えて、「JISマークがついている商品なら大丈夫」と国が認定してくれているようなものと言えますね。
電化製品や日用品などでJISマークを目にする機会がありますが、実は家具にもJIS規格が認定されている商品があることをご存知でしょうか?
テーブルや椅子、スツールといったものがそれにあたります。
テーブルや椅子のJIS規格を決める際には「強度」「耐久」「安定」を重視してテストを行います。
例えば強度なら、テーブルや椅子に加わる最大限の力を与えても、その機能を発揮できるのか、時々加わる急激な力でも強度を保てるかのなどの試験を実施します。
耐久性テストでは長期間にわたって使用する際に繰り返し行われる動作によって受ける衝撃を、座面や背もたれなどの部位ごとに想定して負荷をかけ続けるなどの実験を行います。
安定性では転倒しやすい状況で椅子やスツールが通常の機能を発揮できるかどうかの試験をしたり、前脚後脚それぞれの方向からの安定性などもチェックしたりします。
このようにあらゆる事態を想定したテストを繰り返し行い、認められた製品だけにJISマークがついているのです。
展示会用に制作されるテーブルや椅子、展示台といった造作物は、わざわざ国認定の試験をして規格を満たしているのかチェックを行いませんが、実際の使用時に問題がないように一定以上の基準を満たす強度・耐久性・安定性が求められることは言うまでもありません。
設計・デザインを担当する我々と制作する現場の職人さんたちがコミュニケーションを取り合うことで、クライアント様への安心感を確保するようにしています。
さて、ここからは余談ですが、JIS規格といえばJISマーク。
JとIとSが組み合わさったマークであまりにも有名ですが、今回このエントリーを書くにあたって改めてJIS規格について調べていると、なんと新しいマークに改定されていたのです。
こちらが新しいJISマークです。
JISマークは、1949年 (昭和24)の工業標準化法制定以来付されてきたマークでしたが、2004年 (平成16)の工業標準化法の改正により従来とは異なる新たな表示制度に改正されました。これに伴い、マークのデザインも刷新されたそうです。
新JISマークのデザインは公募され、5,000件近い応募の中から工業デザイナーの水野尚雄氏がデザインしたものが選ばれ、2005年 (平成17)3月28日に発表されました。
新JISマークについては、
1 「JIS」を横に並べることにより、世界中の人に一目で分かってもらえるようにした。
2 Industry(工業)を示す「I」の文字を中心に置くことにより、工業製品のきっちりした品質をイメージ。
3 丸い囲みには、認証OKの意味。
4 円形の外周は日本を象徴し、右回りに旋回することにより、21世紀の日本の産業が発展していくイメージを重ねている。
5 左右対称の丸い外周は、人の顔を想起させ、親しみを持ちやすくした。
といったデザインコンセプトに基づいたものだそうです。
新JISマークは直線と円弧のみを用いて描けるように設計されていて、とても美しいと感じました。また、線が太くなり、大きなサイズでも小さなサイズでも視認性に優れているなとも感じました。
さてさて、イベント・展示会業界におけるデザインの基本についてのこのエントリーですが、尺貫法から始まって最後はJISマークについてと、ずいぶん脱線してしまいました。
ボックスワンのデザイナーとして、普段どのようなことを意識しながらブースデザイン業務を行っているのかを、これから何回かに分けて書いていければと思います。
それではまた。